高崎東小学童クラブ

高崎市立東小学校に通う児童のための学童クラブです。

弁護士鈴木愛子さんのブログより

学童保育はなぜ足りないの?-放課後のおうちを作って!新制度下の学童保育

弁護士 鈴木愛

2016-03-18 11:28:05

テーマ:学童

平成27年度にスタートした、子ども子育て支援新制度(以下「新制度」といいます。)。

この新制度は、学童保育にも、大きな影響を与えています。
学童保育の歴史と現状についても触れながら、新制度が学童保育に与える影響をお話ししてみます。

共働きや1人親家庭の小学生が、放課後や土曜日、長期休みに「生活する」「第二のおうち」である学童保育
法律上の位置づけは、「放課後児童健全育成事業」という、児童福祉法に基づく第2種社会福祉事業になります。

第2種社会福祉事業なのか、じゃあ、自治体とか、社会福祉法人が運営しているのかな、と思われる方が多いのではないでしょうか。

結論としては、自治体や社会福祉法人「も」運営している、です。

市町村が直営している公立公営は4割弱の37.1パーセント。

行政からの委託により保護者による任意団体である父母会や保護者会が直接運営している形態もありますし(5.8%)、地域運営委員会方式と呼ばれる形態(こちらは16.9パーセント。地域の役職者と学童保育の父母の代表で構成される任意団体の組織です。実際の運営は父母会が行っているパターンも、実際の運営も運営委員会が行っているパターンもあります。)。

また、法人が運営主体となっている場合もあります(28.7パーセント)。この法人の中には、私立保育園や私立保育園以外の社会福祉法人等もありますが、父母により設立されたNPO法人が運営している形態もあります。

なお、父母会・保護者会といった保護者による任意団体や、父母によるNPO法人学童保育を運営する、というのは。場所の確保、指導員の求人・雇用、助成金の申請、児童の入退所の管理といった文字通りの「経営」を、仕事も育児もある親集団が行う、という意味です。

そして、このような運営主体のばらつきは、市町村ごとの差であり、同じ都道府県の中でも、自治体によりかなりの差があります。

例えば、愛知県では、名古屋市には公営の学童保育はありませんが、豊田市豊橋市岡崎市等では、学童保育の多くが公営です(多くが、と書いたのは、これらの自治体の中でも、公営以外の学童保育もあるからです。)。

なぜ、これほどまでに自治体毎に差があるのでしょうか。

実は、学童保育というのは、法制化されてからの歴史が浅い。
児童福祉法に基づく事業として法制化されたのは、1997年になってからのこと。 平成になってからの話です(学童保育自体は法制化よりずっと以前の、昭和の時代から存在します。全国学童保育連絡協議会の結成は1967年です。)。

就労と、子どもが安全・安心して子ども集団の中でのびのびと発達できる環境を用意すること。その両立を諦めなかった親たちによる自助共助、学童保育の充実を求める様々な運動が先にあり、法律があとからついてきたのが学童保育の歴史です。

そして、新制度になってはじめて、児童1人当たりの専用区画についての面積基準(おおむね1.65平米以上)、「支援の単位」あたりの児童数の基準(おおむね40人以下)指導員の資格と配置基準(開所時間を通して常時2人を配置、そのうち1人は放課後児童支援員の有資格者であることが必要)、といった、学童保育に関する基準が施行されました(放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準・厚生労働省令)。

また、学童保育の対象児童が、従来のおおむね10歳未満の児童から小学校に就学している児童に変わったことも注目すべき変化です(2012年8月児童福祉法改正、2015年4月施行)。

従前は、学童保育の対象児童はおおむね10歳未満という規定であったために、三年生までしか受け入れていない学童保育が多くありました。四年生になってからの放課後や長期休みをどう過ごさせるか?という問題を意味する、「四年生の壁」との言葉が出来たゆえんです(全国学童保育連絡協議会による2007年調査では、3年生までしか学童保育に入所できない自治体は46.8%。2012年調査では34.8%となっています。)。

学童保育について、法制化され、最低限の基準ができること。そのこと自体は質の確保のために必要だと思います。

ただ、基準の実現には当然、「新制度の基準を満たす学童保育を、学童保育を必要とする児童が待機児童とならずにすむ数を作ることができるだけの、予算的・制度的な措置」が必要です。

 今年度、学童保育の入所児童数は、はじめて100万人を超えました。先に述べたとおり、学童保育の対象児童が、小学校に就学している全ての児童になったことで、四年生の増加が特に顕著な状況です。

その一方で、学童保育の基礎的な単位(支援の単位)がおおむね40人以下ともされるようになりました。

学童保育の児童数が大規模になりすぎると、家庭的で安定した保育が難しくなる、子どもが相互に関係性を構築したり、1つの集団としてまとまりを持って共に生活したり、指導員が個々の子どもと信頼関係を築いたりできる規模としては、おおむね40人以下の規模が適切だろう、という趣旨になります(46人以上の大規模な学童保育の割合は減って来てはいますが、2015年調査でも、3割近く存在します。)。

要は、学童保育の対象となる児童の範囲は大幅に増えた一方。
一つ一つの学童保育の規模が大規模化するのはダメ。保育を行うユニット毎の児童数を、あまり多くし過ぎず、適正な規模にしましょうね、ということになりました。

ですから当然、学童保育の施設数は従来より相当数、増やさなければなりません。

おおむね40人以下の基準を大幅に超えている学童保育は、分割して新しい学童を作らないといけない。

また、児童数としては分割の必要はなかったとしても、新制度の面積基準を満たしていない学童であれば、面積基準を満たせるだけの、より広い場所に移転しなければならない。

けれど当然、そんなに急には、学童保育を増やしたり、移転したりすることはできません。

そのため、条例で経過措置を設けたりして、新制度の基準を満たした学童保育の施設を増やすことを先送りしている自治体も多いのです。

そして。

先にも述べたように、 自治体が学童保育を公営しているのは4割弱。保護者による任意団体が、直接、あるいは実質的に学童保育を運営している場合も少なくありません。

保護者団体が、新しく学童保育を作る場合。

近隣の方々に、その場所に学童保育が出来ることについてご理解を頂くのも、土地や建物の賃貸借契約を締結するのも、保育が可能な場所にするための備品の手配(ロッカー等)も親が行います。「開所時間を通して常時2人、内1人は有資格者」との配置基準を満たせるだけの指導員の確保も親が行わなければなりません。これらの諸々を親が行い、各種申請書類を準備してはじめて学童保育が作れます。

 上記の内容を見ればお分かりの通り、「仕事があり、育児もあり、数年単位で人も入れ替わっていく親集団」が本業と育児を行いつつ、無償で、上記のような活動を行うのは本当に難事業です。 場合によっては、その地域における学童保育がなくなり兼ねないほどの難事業。

 新制度になるまでにも、学童保育を利用する児童が増えて施設が手狭になる、様々な事情で退去を求められた、といった問題で学童保育の分割や移転という問題が生じることはもちろん、個々にありました。

 けれど、新制度が出来て、学童保育が「満たさなければならない」基準ができた上での分割や移転、というのはまた意味合いが違います。現に、現段階では満たされていない学童保育が多数あり(だからこそ経過措置が設けられている自治体も多い)、経過措置が切れるまでに、どうにかしなければならない(どうにかならなければ、潜在的な待機児童も含め、学童の待機児童が多数発生することが予測されます。)。

そして、親が直接ないし実質的に運営する学童保育では、この難事業を親が動いてどうにかしなければならない訳です。

 保育園に子どもを預けてフルタイムで働いてきた親にとって、「親の勤務時間+通勤時間」の分だけ子どもを安心して預けることが出来る学童保育は、保育園時代と同じ働き方を継続するために必須のインフラです。

子ども達は、学童でおやつを食べ、宿題をし、指導員や仲間の子ども達と様々な遊びをします。長期休みには食事の提供があり、年間を通じて、子ども達の成長を考えて用意された行事もあります。そんな継続的な保育を受けられる学童保育が、地域に存続し続けてくれるかどうかは、共働きや一人親家庭にとって、死活問題。

 もちろん、毎日の長い時間を、同じ顔ぶれの子ども達の中で、指導員に継続的に関わってもらいながら育ってきた学童保育の子ども達にとっても、学童保育が地域に存続し続けられるかというのは、とてもとても、大きな問題です。

新制度になってから、学童保育に対する国庫補助総額は、前年比では劇的に増えてはいますが(2014年332億2300万円→2015年575億円)、学童保育が増える分だけ、より多く必要となる指導員の確保とその待遇改善を考えると、更なる増額が必要です(指導員の待遇問題に関しては、また改めて別に書いてみたいと思っています。)。

また、学童保育の数を増やすために一番大事なのはもちろん資金面ですが、騒音や送迎の混雑等で、近隣の方々の反対があるとなかなか増やせないのは保育園と同じです。

歴史的な経緯もあり、運営主体も運営方法も全国各地でバラバラ。運営主体・運営方法のそれぞれにメリットもデメリットもある中で、学童保育の制度全体としてはどんな仕組みを目指していけばいいのかは、かなり、難しい問題です。 

ただ、現に保育を受けている、日々成長する子ども達、現に働いている指導員、長年、地域にその学童保育があったことによって築かれた既存のコミュニティ(特に、親運営の学童保育が作り上げる地域とのコミュニティは、地域社会の無縁化が叫ばれる現代において、極めて貴重なものであると考えています。)。

その現にある学童保育の保育の継続性、指導員の雇用の安定性は守られなければならないと、学童保育を利用する親の一人として切に願っています。

まずは、既存の学童保育が新制度への移行をできるだけスムーズに乗り切り、既存のコミュニティを守ったその上で、学童保育に関する諸制度をより良くしていかなければならない、と思っています。

保育園の待機児童問題が注目されているこの時期だからこそ。
保育園の次の、学童保育について、新制度との関係をまとめておきたいと思い、こんなブログを書いてみた次第です。

※当ブログの見解は、筆者の弁護士&学童を利用する一父母としての見解であり、所属する学童を代表する見解ではありません。

[参考文献]
学童保育情報 2015-2016(全国学童保育連絡協議会)
あいちの学童保育情報ハンドブック(愛知学童保育連絡協議会)
学童保育と子どもの放課後(増山均)