高崎東小学童クラブ

高崎市立東小学校に通う児童のための学童クラブです。

木下昌明の映画の部屋 ・加納土監督『沈没家族』

家族のあり方を問う愉快なドキュメンタリー

 加納土(つち)監督の『沈没家族』は、家族の新しいあり方を問うた愉快なドキュメンタリー。

 

 この映画は土が学んだ武蔵大学の卒業制作作品で、いくつかの学生映画祭で賞を受け、評判になった作品だ。制作時、土は元NHKプロデューサーで同大教授、永田浩三の指導を受けた。それが劇場版として再編集され、公開される。

 主な登場人物は、加納穂子(ほこ)と土の母子。撮影時に母は44歳、土は22歳に成長しているが、20歳そこそこの母と1歳ごろの土も登場する。土の誕生について、映画の中で穂子は写真専門学校に通っていたときに「たまたま発生した」と話している。彼女は土が生まれた頃から彼氏と折り合いが悪く、シングルマザーとして土を育てる決心をする。学校も仕事もある穂子が考えたのは「あなたも子守りをしませんか?」というチラシをまくなどして共同保育人を募集することだった。穂子は二人で生きるのに必死だったが、「みんなで育てれば楽しいじゃないか」の軽いのりに若者がどっと応募してくる。それが1995年のこと。

 東京・東中野の彼女のアパートで、交代で子育てが始まる。これがNHKなどに取り上げられ、映画では、穂子が撮った写真ともども、その模様が映されていく。当時、男女共同参画の出現に「日本が沈没する」と嘆いた政治家の言葉を逆手にとって「沈没家族」と名づけ、表札にまで「沈没ハウス」と出す。

 その20年後、幼児だった土が、今度はカメラを握って、母と一緒に昔の「沈没家族」や1年後に引っ越した「沈没ハウス」を訪ねていく。当時の保育人たちや〝姉″とも再会して語り合う。

 興味深いのは、「隣のおじさん」こと実の父に、三重県にまで会いに行く場面。モヒカン刈りの彼に唖然(あぜん)。そこで海水浴に行ったり言い争ったりする中で、彼の悲哀も伝わってくる。そんなこんなから、是枝裕和監督の『万引き家族』のような、血縁ではないが、みんなの子どもだった土を中心とした、共同体の愉快で前向きな生活史が浮かんでくる。(『サンデー毎日』2019年4月14日号)