高崎東小学童クラブ

高崎市立東小学校に通う児童のための学童クラブです。

『存在のない子供たち』

 カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞
 雑誌「ハルメク」掲載記事 2019/07/10 
 50代以上の女性におすすめの最新映画情報を、映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。子どもの視点で中東の現実を見つめた傑作です。

 『存在のない子供たち』

 ある罪で勾留された12歳の少年ゼインは、両親を法廷で訴える。その罪とは、「自分を産んだ罪」だという。なぜ、少年がこのような訴えを起こしたのか? 彼は中東のスラム街で、両親、兄弟と暮らしていた。虐待する父親、食事も満足に与えない母親、さらに路上で物を売らされるなど労働も強いられた。11歳の妹が彼女の意思に反して、結婚させられたとき、ゼインはその怒りから家を飛び出すが、さらに過酷な現実を目の当たりにすることになる。

 監督はレバノン出身で、今最も注目される女性監督のナディーン・ラバキー。主演・監督したデビュー作『キャラメル』(2007年)は日本でもヒットした。本作は彼女の長編4作目にあたる。

 昨年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したが、同映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」とともに、“インビジブル・ピープル”つまり社会から見えない存在、阻害された存在の人々に光を当てた胸を打つ作品として高く評価された。

 ドキュメンタリー映画ではないが、この中に描かれている出来事は、3年におよぶリサーチの中で実際に目にした“中東の現実”だという。貧困、不法移民、不法労働などの社会問題の陰で、最も影響を受けるのは子どもたちである。ゼインのように親が出生届を出すという義務を果たさなかったばかりに、存在すら証明されない子どもたちもいる。

 一方で、ゼインと移民の女性のように血はつながらなくても肩を寄せ合って生きることもできる。ゼインを演じたゼイン・アル=ラフィーアもシリアの治安悪化を逃れベイルートで暮らしていた難民で、俳優ではない。彼の瞳に宿った哀しみや怒りが胸をつく。見終わった後、心のざわめきを止められない作品である。